温泉街を繋ぐ橋の上で涙を流していたら老舗旅館の若旦那に溺愛されました~世を儚むわけあり女と勘違いされた3分間が私の運命を変えた~
「さっき通った大浴場に続く廊下はあそこだよ」
「……やっぱり、こちら、特別室なんですね」
「ああ、俺も空いている時は時々使うんだ」

 頷きながら、庭へと通じる大きな窓を開けた一鷹さんは、その先に広がるウッドデッキへと出る。すると、大きな手でちょいちょいと私のことを手招いた。

 緊張しながら外へ出ると、一鷹さんは「ここから見る景色が一番いい」といい、自信満々の笑顔を浮かべた。

「冬の雪景色を眺めながら火鉢でスルメを焼いて、一杯呑むのがまたよくてな」

 笑っていう一鷹さんは、ほらといってウッドデッキにある素焼きの火鉢を指差した。
 なんとも贅沢な楽しみ方ね。

 体験したこともない非日常なのに、スルメなんていうから、とたんに庶民ぽさが滲みでた。それがおかしくて、つい笑って「スルメか」と呟くと、一鷹さんは嬉しそうに「鮭トバもいいぞ」といった。

「お酒、好きなんですね」
「ここいらの冬は冷え込むからな。酒がなくちゃ始まらない……あー、すずさん、だったか。お酒は呑める口か?」
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