温泉街を繋ぐ橋の上で涙を流していたら老舗旅館の若旦那に溺愛されました~世を儚むわけあり女と勘違いされた3分間が私の運命を変えた~

 案内されたのは、本館の奥だった。
 進む廊下もずいぶん古くて、いかにも離れといった雰囲気を醸し出している。

 静かな廊下は磨かれた板張りで、時折、ギイギイと軋んだ音を立てる。それがまた、旅館がすごしてきた時間の長さと情緒を感じさせた。

 廊下の突き当たり、引き戸の鍵を開けた一鷹さんが私を振り返った。

「こちらが桂の間になります。どうぞお入りください」

 旅館の若旦那らしい丁寧なものいいで私を招いた。
 おずおずと引き戸を潜ると、い草の香りがふわりと漂った。

「荷物はここに置きますね。お部屋の案内をさせていただきます」

 さあさあといわれて部屋に上がる。
 襖を開けると、想像に違わぬ広い和室だった。お布団なら四人分敷いても余裕があるわ。

 それに、続いている縁側には、ノスタルジックさを感じさせるテーブルと椅子のセットがある。いかにも旅館といった雰囲気に、思わず口許がほころんだ。

「気に入ってくれたかな?」
「ええ、とても素敵なお部屋で……あ、桜の木」

 窓から見た庭に桜の古木を見つけると、横に立った一鷹さんが窓を指した。
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