私があなたを好きだということだけ知っていてくれたら、それでいい。(うそ、本当はあなたの一番になりたい)
第一話
数メートル先で、赤いスポーツカーが停車した。まるでそこだけ、日常から切り離されたかのように鮮やかだ。
助手席のドアが開き、そこから出てきたのは見覚えのある人物。自分と同じ年齢とは思えない、涼しげで大人びた雰囲気を持つ彼は――五十嵐拓人だ。
彼が歩道へと移動すると、運転席のウインドウが下がった。そこから現れたのは同性の私でも息を吞むような美貌の大人の女性。
彼はこちらに背中を向けているので、どんな表情をしているかはわからない。けれど、女性の顔は見えた。車の色と似た真っ赤な口紅が光る唇が、何かを告げた。
ウインドウは上がり、車は砂を噛むような音を立てて走り去っていく。
しばらくの間、彼は赤い車が去った方を見ていた。そして、ゆっくりこちらへと振り向く。
慌ててどこかに隠れようとして、動きを止めた。彼が涙を流していたから。
この日ほど、自分の視力のよさを恨んだことはない。映画のワンシーンのように非現実的で、美しく、そして痛々しい光景が私の網膜に焼き付いた。
足が地面に縫い付けられたかのように固まり、思考が止まる。
彼が俯き、再び歩き出したことで、ようやく私は我に返った。
そして、今度こそその場を逃げ出したのだった。
助手席のドアが開き、そこから出てきたのは見覚えのある人物。自分と同じ年齢とは思えない、涼しげで大人びた雰囲気を持つ彼は――五十嵐拓人だ。
彼が歩道へと移動すると、運転席のウインドウが下がった。そこから現れたのは同性の私でも息を吞むような美貌の大人の女性。
彼はこちらに背中を向けているので、どんな表情をしているかはわからない。けれど、女性の顔は見えた。車の色と似た真っ赤な口紅が光る唇が、何かを告げた。
ウインドウは上がり、車は砂を噛むような音を立てて走り去っていく。
しばらくの間、彼は赤い車が去った方を見ていた。そして、ゆっくりこちらへと振り向く。
慌ててどこかに隠れようとして、動きを止めた。彼が涙を流していたから。
この日ほど、自分の視力のよさを恨んだことはない。映画のワンシーンのように非現実的で、美しく、そして痛々しい光景が私の網膜に焼き付いた。
足が地面に縫い付けられたかのように固まり、思考が止まる。
彼が俯き、再び歩き出したことで、ようやく私は我に返った。
そして、今度こそその場を逃げ出したのだった。