白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
私の手のひらの上で、ピアノの鍵盤を模した板が置かれていた。

リハビリのためのトレーニング器具――それは、まるで舞台の再現のようだった。

「右手、少しでもいい。動かしてみよう。」

悠真先生の声が静かに響く。

息を整え、集中する。

頭の中で“ド・レ・ミ”の音を思い描く。

その瞬間、小指がほんの少し震えた。

それを見た悠真先生が息を呑む。

「今の……」

「動いた……動いたわ!」

目に涙が溢れる。

「大丈夫。指は覚えてる。君が奏でてきた音を、ちゃんと覚えてるんだ。」

悠真先生の言葉に、私は嗚咽混じりに笑った。

動く。動いている。私の指、両手の指動いている。

私は両手で顔を押さえながら、空を仰ぎ見た。

「私、ピアニストに戻れるのね。」
< 194 / 298 >

この作品をシェア

pagetop