白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
「では、本番です。」

私はゆっくりと立ち上がった。

「美玖さん。いつも通りに。」

「はい。」

遠藤さんと一緒に控室を出て、舞台への廊下を歩く。

水色のドレスが、私の行く先を揺らしている。

「この舞台は、何度か立っているね。」

「って言っても、コンクールの時だけですよ。」

遠藤さんとの他愛のない話が、緊張を解きほぐす。

「ピアノは、スタインウェイだったね。」

「ええ。密かな私の相棒よ。」

両親は私にピアノの才能があると言われ舞い上がり、最高峰のピアノを私に用意してくれた。

ずっとスタインウェイと一緒だった。

どんなコンクールの時も。

一緒に乗り越えた、放れられない仲間だ。

そして私は、舞台の袖に立つ。

「思い切り、楽しんでおいで。」

遠藤さんは、私の背中を押した。

私は光の中に、歩みを始めた。

そこにはたくさんの拍手が待っていた。
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