白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
私は振り返ると鷲尾先生に、詰め寄った。

「どこまで聞いてたんですか?」

「えっ……なんか、音がズレるとかそんな感じ?」

ヤバい。鷲尾先生に知られた。

きっと悠真先生に報告するに決まってる。

「お願いです。悠真先生には黙っててください。」

「えっ……」

「悠真先生には、知られたくないんです!」

鷲尾先生は返事もせず、何も返さなかった。

私は鷲尾先生に背中を見せると、病室に戻った。

僅かに感じた、音の遅れ。

それは音のズレとして、観客の耳に届く。

ピアニストが音を外すなんて、5%にも満たない。

一音一音を正確に刻むからこそ、ピアニストとしての価値が生まれる。

「うぅ……」

悔しかった。音を外すなんてピアニストとして最低。

「うわあああ!」
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