白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
やばい。こんなところで石田さんに会うなんて。

さっき美玖と会っていた事、見られていないだろうか。

「随分遅いんですね。」

心配を他所に石田さんは歩き始めた。

「まあ、医師なんて定時があって、ないようなものですからね。」

俺も石田さんのペースに合わせて、歩き始めた。

「仕事がない時は、何をしているんですか?」

「一緒ですよ。医学書読んでます。」

「プライベートも、仕事みたいなものですね。」

「そんなもんです。」

裏口のドアを開けた時、石田さんは俺に何かを訴えるような目をした。

「渡部先生、こう言ったらなんですけど。」

「はい。」

「さっき、ベンチに座って会っていたのって、天音美玖さんですよね。」

やっぱり見られていた。
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