白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
先生はクスクス笑っている。

「何か、可笑しいですか。」

「いや。俺達、似ているなって思って。」

胸の奥がトクンと呼吸をした。

「どこがですか?」

「いや、患者さんに薬の名前言っても、分からないのと一緒だと思って。」

その言葉に妙に納得してしまった。

「お互い、理解されない職業ですもんね。」

「あははは。」

その笑い声が、私の心を溶かしていく。

「何歳からピアノ、始めたの?」

「8歳くらいからですよ。」

「最初から上手く弾けた?」

「最初は猫ふんじゃったですからね。誰でも弾けますよ。」

「そうかな。俺は弾けないけど。」

いつの間にか会話が弾んでいたのは、この人が悪い人じゃないと知ったから。

あんなに、淡々と手術の説明をしていた人が、今は私の事を知ろうとしてくれている。

何だか、首筋がくすぐったい。

「なあ、君はまだ若い。」

ちょっと砕けた言い方に、胸が跳ねた。
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