白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
「それも兼ねてね。」

渡部先生は、ベッドサイドにある椅子に座った。

「天音さんは、天才ピアニストなんだってね。」

私は、目を丸くしてパチパチさせた。

「調べてびっくりしたよ。中学生から賞を総なめしたって、まさに天才だよな。」

ちょっと恥ずかしい気持ちを抑えきれない。

「それだけ努力しましたから。」

「いやあ、努力だけじゃ行けない領域だよ。」

胸が苦しい。誉められる事に慣れていないせいだ。

「先生だって、勉強ができたから医者になったんでしょ。」

「あー、そこは……まあね。」

否定しないなんて、これだから医者は困る。

「どんな曲を弾くの?」

私は右の髪をかき分けた。

「主にショパンですかね。たまにドビュッシーとか弾きます。」

彼がきょとんとしている。

「ごめん。俺、クラシックに疎くて。」

「先生だけじゃないです。大抵の人は、ショパンって言われてもどんな曲か知らないですよ。」
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