君を守る契約
宗介サイド
琴音が退職したことは、もう知っている。本人から聞いたわけではないのに、周囲からの話で知ると言うなんとも情けない状況に手を強く握る。
「本当に、体調相当悪かったんですね……」
同僚のその言葉を、俺は曖昧に笑って受け流した。本当は、何もわかっていない。退職の理由も、今どこにいるのかも、なぜ何も言わずに消えたのかも。
休みのたびに、俺は彼女の実家のマンションに足を運んでいた。何度インターホンを押しても、返事はない。
郵便受けに溜まっていくチラシを見て、胸がざわつく。
玄関の前に立つたび、「もう少し待てば帰ってくるかもしれない」そんな淡い期待を抱いてしまう自分が、情けなかった。
自宅のマンションに戻っても、部屋は相変わらず静まり返っている。琴音の痕跡は、ほとんど残っていない。
机の引き出しの奥に、あの日の白い封筒があることだけが、現実を突きつけてくる。
——まだ終わったわけじゃない。
そう言い聞かせながらも、時間だけが無情に過ぎていく。
そんなある日。フライト後、ロッカールームで同僚とすれ違ったときだった。
「松永機長、最近疲れていそうですが大丈夫ですか?」
「……そう見えるか?」
「奥さんの件、心配してる人多いですよ。大丈夫ですか?」
俺は、あぁ、とだけ答えるとそれ以上は言わせなかった。大丈夫なわけがない。この喪失感を言葉で表すことができない。
もうこれ以上、何も知らない誰かの口から琴音の名前を聞きたくなかった。
今仕事がきちんとこなせているのは琴音が戻ってきた時に情けない姿を晒さないためだ。
「本当に、体調相当悪かったんですね……」
同僚のその言葉を、俺は曖昧に笑って受け流した。本当は、何もわかっていない。退職の理由も、今どこにいるのかも、なぜ何も言わずに消えたのかも。
休みのたびに、俺は彼女の実家のマンションに足を運んでいた。何度インターホンを押しても、返事はない。
郵便受けに溜まっていくチラシを見て、胸がざわつく。
玄関の前に立つたび、「もう少し待てば帰ってくるかもしれない」そんな淡い期待を抱いてしまう自分が、情けなかった。
自宅のマンションに戻っても、部屋は相変わらず静まり返っている。琴音の痕跡は、ほとんど残っていない。
机の引き出しの奥に、あの日の白い封筒があることだけが、現実を突きつけてくる。
——まだ終わったわけじゃない。
そう言い聞かせながらも、時間だけが無情に過ぎていく。
そんなある日。フライト後、ロッカールームで同僚とすれ違ったときだった。
「松永機長、最近疲れていそうですが大丈夫ですか?」
「……そう見えるか?」
「奥さんの件、心配してる人多いですよ。大丈夫ですか?」
俺は、あぁ、とだけ答えるとそれ以上は言わせなかった。大丈夫なわけがない。この喪失感を言葉で表すことができない。
もうこれ以上、何も知らない誰かの口から琴音の名前を聞きたくなかった。
今仕事がきちんとこなせているのは琴音が戻ってきた時に情けない姿を晒さないためだ。