君を守る契約
周囲には誰もいない。私はわずかにためらいながらもタクシーアプリを閉じた。

「いいんでしょうか？」

「もちろんですよ」

彼は小さく頷くと、パーキングに向かうため私より1歩先を歩き始めた。私は彼の背を見つめながら足を進める。急に送ると言われ、正直なところ驚いたが、不思議と彼に対して嫌な感情はない。彼とお昼話した時からなぜか彼の穏やかな表情にどこかホッとさせられるところを感じていた。だからこそ普段ならあまり口にしないまでしてしまったのだろう。
同じ職場の人と言ってもあまり話したこともない、ましてやパイロットの彼に送ってもらうなんていつもの私なら絶対にしないだろう。それなのになぜか彼には気を緩めてしまう自分がいた。

車のドアを閉めると夜の空気が遮断され、静寂だけが満ちていた。
エンジンがかかると車内に柔らかい暖房が広がっていき、少しだけ気持ちも柔らぐ。

「すみません、送ってもらって」

「気にしないでください。詳しい住所を教えてください、入力するので」

私は彼に住所を伝えるとナビに入力し、車は静かに動き出した。街の街灯が窓の外を流れていくのを見ていると、彼がポツリと口を開いた。

「昼間の話なんだけど……弟さんのこと」

「あ、はい。すみません、仕事中にあんな話をしてしまって」

自分でもお金の話なんてするべきではなかったとちょうど思っていたところだった。

「いいえ。あれから少し考えていたんです」

彼は前方を見ながら話を続ける。
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