君を守る契約
「学費や生活費、相当かかりますよね? 特に医学部はそう聞きます」

「はい。でも、国立なのでまだ……それに両親の保険も残っていて」

私はお金の話で恥ずかしいが、彼はきっと昼間に少し弟の話をしたので気になっていたのだろう。

「ご両親の保険……ってことは亡くなられているのか?」

「はい。私が20歳の時に事故でふたりとも同時に」

「そうか。それは……辛かったな」

彼のその言葉は温かかった。たった一言なのになぜか胸を打つ。その後に続く言葉が出てこない。彼とまた沈黙の時間が流れる。やがて彼はまた口を開いた。

「その、お金がなくなったらどうするんだ?」

「え?」

「普通に医学部に行くとなるとかなりの額がかかるだろう。だから節約をしているんだろう? もしも、その心配をしなくてもいいようにできたら?」

彼の言っている意味がわからなかった。お金の心配をしなくていいように?

「俺と結婚しないか?」

「は?」

思わず声を上げてしまった。け、結婚?
なぜそんな話になるのだろう。

「弟さんが医者になるまでの費用、生活の支え、全部俺が負担します」

「どうしてそんなこと……」

「浅川さん、その代わりに俺と“契約結婚“してくれませんか?」

ふと目にしたのは彼の握るハンドルを持つ手が、わずかに力が入ったように見えた。彼の“契約結婚“という言葉に私の胸はドクンと心臓を強く打つ音がしたように思った。
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