君を守る契約
「婚約指輪は今日お持ち帰りになりますか? 結婚指輪は刻印をいたしますので10日ほどお時間をいただきます」

「そうですね。今日持ち帰ります」

彼はそう言うと金額が書かれているであろうプライスカバーを受け取るとさっと中身を確認する。そしてそこにクレジットカードを挟むと店員に返した。

「結婚指輪への刻印はどうされますか? お名前の方もいらっしゃいますし、何かメッセージや思い入れのある言葉、日にちを入れることが多いように思います」

「そうですね。では“You‘re my only one“ と入れてください。長いかな?」

なんだか少し耳が赤い気がするのは錯覚だろうか。でも彼のこの言葉に喉の奥が締めつけられるように胸が苦しくなる。

「大丈夫ですよ。素敵ですね。奥様もお幸せですね」

店員さんにそう言われるとまるで私たちは本当に愛し合っているかのような錯覚を起こしそうになる。勘違いしてはいけない。

「ありがとうございます」

ようやく小さな声が出た。
包まれた小さな紙袋を手にお店を出るとなんだかぐったりと疲れ果ててしまった。でも彼はなんだかいつもより口角が上がっているように見えた。
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