君を守る契約
「お父さん! お母さん!」

私は思わず声を上げた。すると幸也も呼びかける。

「お父さん! お母さん!」

そっと触れるとまだ温かかった。
北川先生が近くにくると、聴診器を胸に当てる。ペンライトで瞳孔の確認を始める。その動きを私たちは目で追う。

「16時28分。ご臨終です」

取り囲んでいた医療スタッフ全員が頭を下げていた。その様子に私は呆然としたままだ。先ほどまで鳴り響いていたアラームの音が消え、一瞬にして静寂に包まれた。
その間も幸也は訳が分からず、私の手をぎゅっと握りしめたままだった。

「おふたりは最後まで本当に頑張られました」

その言葉が私たちの胸に染み込まれていった。
その後、父の弟が病院に駆けつけてくれ、葬儀の手配をしてくれた。
私も幸也も訳が分からぬままに時間だけが過ぎていく。
父方の祖父母はすでに他界している。母方の祖父母は健在だが、祖父は脳梗塞をしてから半身不随になっていた。秋田から葬儀には駆けつけ、参列してくれたがあまりの憔悴ぶりにかける声も見つからなかった。
葬儀が終わり、家に戻ってきたところで叔父夫婦から声がかかった。まだ香の煙が漂う部屋で、少し言いにくそうに話を始めた。

「あのな、琴音ちゃん。幸也くんのことなんだけど」

ふたりは顔を見合わせると、意を決したように

「施設に預けるのを考えないか? 琴音ちゃんはもう大きいから1人でも暮らせるだろう。でも幸也くんはまだ無理だ。私たちのところの子供も小さいから引き取ってあげることはできない。それに秋田のおばあちゃんたちのところも無理だろう?」

その言葉を聞き、私は考えるまでもなく答えた。

「大丈夫です。私が育てます。たったひとりきりの家族なんです」

成人しているので私が育てるのに問題はないはず。叔父夫婦はそれでも幸也を預けた方がいいのではないかと何度も口にするが私は頑として受け入れなかった。
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