君を守る契約
マンションに戻ると彼は真剣な顔でキッチンに立とうとしていた。

「まずはどうしたらいいですか?」

「え? 私がするので大丈夫ですよ」

「いや、結婚したからには俺もやらないと平等にならないから教えて」

そのいい方はなんだか新婚みたい。私たちは契約結婚で、私は彼に金銭的援助を受けるから最初に話した通り彼がいる時は食事を共にするし、その時には私が作るものだと解釈していたので驚いた。でも彼はキッチンに入り、すでに手を洗っていて、やる気になっているようだ。

「いいんでしょうか?」

「もちろんです」

そう言う彼の真剣な顔を改めて見て、私はジャガイモを渡した。

「あれ? ジャガイモが随分小さいみたいなんだけど、もうひとつ剥く?」

ふと彼の手元を見ると分厚く皮を剥かれたジャガイモがこじんまりと置かれていた。

「ま、松永さん! これ皮を厚く剥きすぎです。えっと、皮剥きはないから私が変わりますね。それじゃ、この玉ねぎの皮を剥いてください」

クスっと笑うと彼も厚く剥いた自覚があるのか苦笑いを浮かべていた。私がスルスルと皮を剥くのを見て「手慣れていますね、さすがです」と感心したように呟いていた。

ふたりであれやこれや話ながら立つキッチンはなんだかとても楽しかった。最近は誰かのために作ることもなく、自分が食べるだけのため張り合いもなかった。家に帰っても話す人もおらず通帳を見つめる日々。だから今日は一日中松永さんといて久しぶりに満たされた気がした。
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