君を守る契約
「さ、できました。食べましょうか」

炊飯器からアラームが聞こえてきて、ご飯が炊き上がったようだ。
出来上がったのは肉じゃがと鯖の竜田揚げ、ほうれん草のおひたしと味噌汁だ。どれも特別な料理ではない。家庭料理といったものばかり。でも私にできるのはこういうものばかり。

「すごい！　これ全部作ったのに1時間もかかってないですよね」

「この程度なら……。今まで仕事から帰るとお腹を空かせた弟が待っていたので手慣れているだけです」

「弟さんは幸せものだな」

彼の言葉に少し恥ずかしくなる。

「味は……どうかわかりませんよ」

私がそういうと彼は笑顔を浮かべ、箸を持つ。

「いただきます」

彼は味噌汁から始まり、おかずに次々と手が伸びていく。黙々と食べるその姿に味付けが心配で私は箸が動かずにいた。

「美味しい」

彼のそのポツリと呟いた声に胸の奥がじんわりと熱くなった。彼の言葉は決して大げさではないのに、なぜだか心に深く響いた。

「……呼び方、決めませんか？」

不意に彼は箸を置いて言った。

「職場では“浅川さん”ですが、家でもそう呼ぶのはなんだか距離がある気がして。それに3年は結婚生活を続けるんです。他の人にバレないためにもどうですか？」

その言葉に一瞬迷った。でも彼のいう通り、名字で呼び続けるのはおかしい。

「じゃあ……琴音、でいいです」

と小さく答えた。

「……琴音」

その名前を呼ぶ声は、不思議なくらい穏やかで優しかった。それだけで心臓が跳ねる。

「じゃあ、私も……宗介さん、って呼びますね」

「はい」

彼は微笑み、その笑顔に私の頬が自然と熱くなった。
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