君を守る契約
電車に乗るがそこそこ混んでおり、私たちは会話もなく空港に到着した。

「じゃ」

そう言って会社に着くと彼とは別々の方向へ進む。本当なら今までの家よりも近くなったのだから体は楽なはずなのに、彼と出勤したせいでいつもより疲れていた。ロッカールームに入ると小さくため息をついた。そして着替えながら、私の手に光る指輪を見てまたため息がひとつ落ちてしまった。通りすがる同僚なの視線が何度も手元に落ちる。何も聞かれないけれど明らかに気付かれている空気を感じる。
昼過ぎに事務所で書類をまとめていると、隣の席に座る先輩が少し遠慮がちに話かけてきた。

「ねぇ、琴音ちゃん。それ、もしかして……」

「あ……」

思わず手を隠しかけた瞬間、ドアが開いた。そして宗介さんと彼の後輩がふたりで話ながら入ってきたのだった。と言っても彼はいつもの通り落ち着いた雰囲気で後輩が話す言葉に相槌を打つような感じだった。ふたりが近くのデスクに座ると、後輩は興味深々で彼のはめている指輪を指摘した。

「それ、ペアリングですか?」

気軽な感じで、しかも真面目な彼がそんなことをするなんてと少しからかうような口調で話していた。それを彼はいつもと同じ冷静な声で答える。

「えぇ、結婚したので」

その場の空気が一瞬止まった。指輪はきっと朝からみんなが聞きたかった話だろう。それを聞きだそうとしたその後輩に声に周囲の耳はそばだてていたのだろう。視線が彼に集まっているのがわかる。
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