君を守る契約
「け、結婚?! 誰とですか?」

後輩の子は興奮し、今よりさらに大きな声を上げる。それを彼はなんでもないことのように淡々と私の名前を出した。

「浅川琴音です」

私は言葉を失った。こんな多くの人が聞いている中で彼は私のに名前をあげてしまった。
あぁ言ってしまった、と項垂れてしまう。
私の名前を聞き、「えぇ?」と小さな叫び声が聞こえてきた。この場でどよめきが起き、次の瞬間には私に視線が集まってしまった。先ほど私に話かけてきた先輩も目をまんまるにして驚いていた。

「先ほど総務にも報告してきましたが、昨日入籍しました。お互いに同じ会社ですが、業務に支障はないようにします」

職場結婚はないわけではない。だから本来ならこの報告だけでいいはず。けれど、周囲はもう仕事の手が止まり、興味深々に質問が飛び交う。

いつからですか? 
彼女とどうやって知りあったのですか? 
付き合うきっかけは? 
手料理とか食べてるんですか?  

彼は仕事中にも関わらず真摯にその質問に答えようとしていたのを見て驚いた。彼ならば、仕事中だと一喝しそうなのに。
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