君を守る契約
玄関を開けるとトントンと言う音が聞こえてきた。宗介さんが帰っているの？と驚き、慌てて私はリビングに入る。

「おかえり」

彼はキッチンに立つと玉ねぎと格闘していた。涙を流しながら切る姿に一瞬にして気が緩んでしまう。今日は玄関を入るまで自分でもわかるくらいに緊張感が続いていた。乗客に笑顔で対応していたが、強引に笑顔を作っていた。やっと帰宅したところでまさか宗介さんが涙を流しながら玉ねぎを切っているなんて。あまりの違和感に先ほどまで強張っていた頬が緩んだ。

「ただいま」

「今、昨日琴音が作ってくれたスープを作ろうと思って野菜を切っているところだ」

「そうですか。涙がとまなそうなので変わりましょうね」

ククッと笑いながら私はバッグをリビングに置くと手を洗い始めた。今日は生姜焼きにするつもりだったのでこのスープ用の玉ねぎに追加して切り始めた。彼は目を洗うとまたキッチンに戻ってきて、何か手伝うと言う。彼ができそうなものといえば……しょうがを擦ることだろうか。できるかと気けば、「やってみる」と返してくるところに少し不安を感じるがお願いすることにした。彼にできることをちょこちょことお願いし、ふたりでキッチンに立つとあっという間に夕食が出来上がった。テーブルに並べるとまた向かい合わせで座る。

「今日はみんなの前でいきなり発表して悪かった。でも変に噂をされ続けるよりははっきり言ったほうがいいかと思った」

「はい」

「驚かせた、よな？」

私は頷いた。彼にも驚かせたという自覚があったのだろう。

「ごめん。でも俺が先に公にすれば誰も軽々しく口にしなくなるだろう。君は真面目に働いているからそんなことで苦しい思いをしてほしくないと思って」

彼の声は優しくて、私のためにしてくれたのだとわかった。だから素直にお礼を口にした。

「ありがとうございます」
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