君を守る契約
遅番で夜中に帰ると、ソファで教科書を開いたまま眠る幸也の姿を高校2年の頃からよく見かけるようになった。「おかえり」と寝ぼけた声で言われるたびに胸の奥がじんわりと温かくなった。この一言があればどんな疲れも不思議と消えるようだった。
「こんな時間まで勉強?」
「うん。でも寝ちゃったけど」
そう笑う幸也の顔を見ると私まで笑ってしまう。幸也は真っ直ぐに勉強を続けて、今年地方の国立大学医学部に合格した。奨学金、学資保険、そして両親の残した保険金をかき集め、ようやく学費と生活費を捻出した。
「ごめん、姉ちゃん。お金かかっちゃって。でも俺ちゃんと医者になるから。姉ちゃんに恩返しできるよう頑張るから」
「恩返しなんていいよ。それよりも元気でいてくれたらいい。お金の心配もしなくて大丈夫だからしっかり勉強しなさいね」
私は新幹線のホームで見送るが、乗り込む時までは我慢していたのに、新幹線が発車すると堪えきれずに涙がとめどなく流れてきた。幸也が夢に近づくほど、自分の支えが少しずつ必要なくなっていく。幸也の門出を喜ばなければいけないのに、寂しくて仕方ない自分もいた。この8年間、片時も離れず一緒に寄り添うように生きてきた幸也が手元から旅立っていくのが誇らしくもあり、胸の奥にぽっかり穴が空いたような気持ちになってしまうのが情けなくもあった。
「こんな時間まで勉強?」
「うん。でも寝ちゃったけど」
そう笑う幸也の顔を見ると私まで笑ってしまう。幸也は真っ直ぐに勉強を続けて、今年地方の国立大学医学部に合格した。奨学金、学資保険、そして両親の残した保険金をかき集め、ようやく学費と生活費を捻出した。
「ごめん、姉ちゃん。お金かかっちゃって。でも俺ちゃんと医者になるから。姉ちゃんに恩返しできるよう頑張るから」
「恩返しなんていいよ。それよりも元気でいてくれたらいい。お金の心配もしなくて大丈夫だからしっかり勉強しなさいね」
私は新幹線のホームで見送るが、乗り込む時までは我慢していたのに、新幹線が発車すると堪えきれずに涙がとめどなく流れてきた。幸也が夢に近づくほど、自分の支えが少しずつ必要なくなっていく。幸也の門出を喜ばなければいけないのに、寂しくて仕方ない自分もいた。この8年間、片時も離れず一緒に寄り添うように生きてきた幸也が手元から旅立っていくのが誇らしくもあり、胸の奥にぽっかり穴が空いたような気持ちになってしまうのが情けなくもあった。