君を守る契約
***
洗面所の鏡に映る自分の顔を見ながら、リビングから漂ってくる味噌汁の匂いに思わず笑みが漏れた。
朝、包丁がまな板を叩く小さな音に目が覚めた。今までこの部屋で感じることのなかった生活の音が新鮮で、それでいてリズミカルな音は心地よくて布団の中でまどろんでしまった。
昨日お願いした弁当を作ってくれているのかもと思うだけで胸の奥が満たされていく感じがした。

リビングに出ると彼女が「おはよう」と言ってくれる。そしてカウンターの上にはお弁当の袋がふたつ並べられていあるのを見て思わず頬が緩んだ。
「地味ですよ」と歯にかむような表情を浮かべながら話す彼女はとても可愛らしい。
食卓で軽くトーストをかじりながら、ふたりで交わす何気ない会話。

「今日も寒くなりそうですね」

「手袋、持っていきますか?」

たったそれだけの会話なのに夫婦らしさを感じる。むしろ言葉数が少ないからこそ余計にそう思うのかもしれない。甘い会話なんてない。だからこそ夫婦なのかもしれない。でもそう考えるだけで俺の胸の奥がざわめき、コーヒーの苦味がいつもより甘く感じた。
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