君を守る契約

幸也と宗介

朝の空港。
制服姿の同僚たちに軽く会釈を返しながら、私はゲートへと向かった。同行する宗介さんは黒いコートを羽織り、いつものように姿勢がまっすぐで、通り過ぎる人々の視線を集めていた。

「本当に、同じ飛行機で行くんですか?」

「うん、ちょうどオフが重なったから」

さらりと言うその声が、周囲のざわめきの中でもすぐ耳に残る。

今日は幸也の住む仙台へと向かうためふたりで空港にいた。宗介さんは自分の口からも結婚の報告をしたいと言い、私について来た。
1週間前に幸也に連絡をし、会いに行くと伝えるととても驚いていた。さらに結婚したいと話すと電話からは「えー」と驚く声がいつまでも続いていた。とにかく会って話そうと伝えると幸也もそうしたいと言い電話を切った。
本当はすでに入籍を済ませているので、結婚したいと言う表現は少し違う。でも幸也の気持ちを考えるとふたりきりの家族なのに事後報告をするのはもし私が反対の立場であったら悲しいと思い、これから結婚するという方向で宗介さんにも話を合わせてもらうようお願いした。彼もその方がいいだろうと言ってくれホッとした。

搭乗口に向かう途中、グランドスタッフひとりと目が合った。彼女は一瞬、目を見開いてからニヤリと笑う。私と宗介さんが並んで歩いているのを見つかってしまった。もちろん搭乗者名簿を見ればわかってしまうだろうが、直接見られたことで恥ずかしくなり頬が熱くなった。隣に座る宗介さんはそんな私の様子に気づいたのか、少しだけ声を潜めた。

「どうかした?」

「い、いえっ……なんでもないです!」

慌てて視線を逸らすと、彼は少しだけ唇の端を上げた。その笑みが、余計に心拍数を上げる。機内に入ると、二人並びの座席が待っていた。一緒の家で暮らしているのにこんなにピッタリとくっつくようなことはないので、それも私の心を乱す。
離陸前の静けさの中、窓の外には冬の光が滲んでいる。隣で雑誌をめくる彼の指が、ふとページを止めた。

「弟さん、どんな人なんだ?」

「え……あ、えっと……まっすぐで、ちょっと頑固です」

「似てるな」

その一言に、胸の奥がくすぐったくなった。
でも“似てる”と笑った彼の声が、なぜかとても優しく響いた。
窓の外を見つめながら、私は気づかれないように小さく息を吐く。雲の上の世界は静かで、まるで現実から少しだけ離れてしまったみたいだった。弟に会うのが嬉しくもあり、少し不安が残る。幸也は彼をどう思うのだろうか。もう結婚してしまった今、反対されるわけにはいかない。それに契約は3年のためその時には離婚が決まっているのだ。幸也と宗介さんとの距離感について考えてしまう。
ふと顔を横に向けると、宗介さんは静かに目を閉じていた。
その穏やかな横顔に、どうしてこんなにも“安心”を感じてしまうのだろう。
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