君を守る契約
午前便の対応を終えた後、ようやく昼休憩の時間になった。
食堂の時計は12時を少し過ぎていたが1日中稼働している空港の食堂はいつでも混雑している。
私は空いている席を見つけるとお弁当を広げ、ふぅと一息ついた。
節約のため外で買うことはほとんどなく、この食堂の食事をしたのも数える程度。今朝手早く詰めたばかりの残り物弁当だが、私にとってはこれが日常。きんぴらにハンバーグ、煮卵にナスの煮浸しと定番のおかずで冷凍し保存がきくものばかりだ。
カチャ、と向かいの席に誰かがトレーを置いた音がして、ふと視線を上げると、そこにいたのは黒い制服に身を包む彼、松永(まつなが)宗介(そうすけ)だった。

「すみません、ここ空いてますか?」

「はい、どうぞ」

それだけのやり取り。ふと見渡すと空いている席は他にもあるように思うが、なぜか彼はこの席を選んだ。
彼のトレーにはカレーとサラダがのり、それを黙々と口に運んでいる。
私も黙って箸を動かしているが、なんとなく彼の気配を意識してしまう。
食堂のざわめきの中で彼の動作だけがなぜか静かに感じられた。そんな彼の様子に私は不思議と居心地が悪くない。

「それ……手作り?」

不意に低い声がした。私に話しかけられたのだと気づくのに一瞬の間が空いてしまった。そして彼が私の弁当を見ているのだとわかった。

「あ、はい。節約のために」

自分でも少し笑ってしまうような返答に、彼も一瞬だけこちらを見て頷いた。

「偉いですね」

それだけ言うと再び彼の視線はカレーに向き、また沈黙が訪れる。でもなぜかその一言しか交わしていない会話の後から沈黙が少しだけ変わったように感じた。
食事が終わり、私は箸を置くと手を合わせ小さな声で「ごちそうさまでした」と呟く。それに呼応したように彼も「ごちそうさま」と言葉を発した。
そんなほんの一瞬の時間の共有だけなのになぜか胸の奥に春の陽だまりのような温もりがそっと残った。
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