君を守る契約
宗介サイド
最初に彼女を見たのはほんの偶然だった。ゲートの前で乗客とぶつかりそうになり、とっさに手を伸ばして避けた時、視界の隅に彼女が立っていた。
「申し訳ありません」と言った声が不思議と耳に残った。
うちの制服を着ているのはわかるが、ただそれだけ。彼女の名前も知らない。でもなぜか彼女の印象が消えなかった。
その日からなんとなく彼女が気になり、知らず知らずのうちに目が彼女を探していた。ふと彼女を見かけるたび、誰にでも穏やかで優しく対応しているのに好感が持てる。空港で働く人間なら誰しも“笑顔“をまとっているが、でもそれ以上に彼女には惹かれるものがあった。その反面、どこか張り詰めたような表情をしていることがなぜか気になっていた。彼女の笑顔は無理に作られたものではない。でも、ふとした時に見せるその目の奥にある不安がどうしても気になってしまう。彼女はどんな日々を生きているんだろう。そんなことを考えてしまった自分自身が無性におかしくなり苦笑してしまった。
仕事中に他人の想像をするなんて俺らしくない。基本的に俺は仕事では常に冷静で感情も平坦でいるようにしている。訓練生の頃から感情を排して動くのが当たり前になっていた。感情よりも判断、情よりも冷静さを大切にしてきた。飛行機を安全に飛ばすため、何ひとつとして感情で判断することはない。そうして自分を形作ってきた。そんな俺がたまたまぶつかった彼女のことがこんなに気になるなんて。頭を振るが、その脳裏から彼女が消えることはなかった。
昼の食堂の混み合う中、空いている席を探しているとふと彼女の目の前の空席が目に入る。それ以外にも空いている席は見えるが、俺は悩む間もなく、彼女の向かいの席へ歩き出した。どうしてなのか、それは自分でもわからない。それでも彼女の近くに行ってみたかった。
「ここ空いてますか?」
「はい、どうぞ」
それだけの会話。自意識過剰かもしれないが、パイロットは空港で働く職種の中でやはり目を引く。そのため近くにいると話しかけられることも多い。でも彼女は何も言わずに黙々と食べていた。その空気感がなぜか心地よかった。彼女はお弁当を持ってきており、俺はそれを覗き見すると、中にはきんぴらごぼうやナスの煮浸し、ハンバーグに煮卵が見える。なんだかその家庭的な中身に心の奥が暖かくなる。こんな若い子が持ってくるお弁当とは少し違い、本当の家庭の料理だと思った。その反面、これは誰かのために作ったのかと気になってしまう。その考え自体、何を気にしているんだか、と思わず苦笑した。だが、その興味本意の衝動からつい、「手作り?」と尋ねてしまった。すると彼女は話しかけられたことに驚きを見せつつ、すぐに笑顔を見せ、節約のために作っていると話していた。その俺に向けられた笑顔に胸の奥がふっと軽くなった気がするした。
「申し訳ありません」と言った声が不思議と耳に残った。
うちの制服を着ているのはわかるが、ただそれだけ。彼女の名前も知らない。でもなぜか彼女の印象が消えなかった。
その日からなんとなく彼女が気になり、知らず知らずのうちに目が彼女を探していた。ふと彼女を見かけるたび、誰にでも穏やかで優しく対応しているのに好感が持てる。空港で働く人間なら誰しも“笑顔“をまとっているが、でもそれ以上に彼女には惹かれるものがあった。その反面、どこか張り詰めたような表情をしていることがなぜか気になっていた。彼女の笑顔は無理に作られたものではない。でも、ふとした時に見せるその目の奥にある不安がどうしても気になってしまう。彼女はどんな日々を生きているんだろう。そんなことを考えてしまった自分自身が無性におかしくなり苦笑してしまった。
仕事中に他人の想像をするなんて俺らしくない。基本的に俺は仕事では常に冷静で感情も平坦でいるようにしている。訓練生の頃から感情を排して動くのが当たり前になっていた。感情よりも判断、情よりも冷静さを大切にしてきた。飛行機を安全に飛ばすため、何ひとつとして感情で判断することはない。そうして自分を形作ってきた。そんな俺がたまたまぶつかった彼女のことがこんなに気になるなんて。頭を振るが、その脳裏から彼女が消えることはなかった。
昼の食堂の混み合う中、空いている席を探しているとふと彼女の目の前の空席が目に入る。それ以外にも空いている席は見えるが、俺は悩む間もなく、彼女の向かいの席へ歩き出した。どうしてなのか、それは自分でもわからない。それでも彼女の近くに行ってみたかった。
「ここ空いてますか?」
「はい、どうぞ」
それだけの会話。自意識過剰かもしれないが、パイロットは空港で働く職種の中でやはり目を引く。そのため近くにいると話しかけられることも多い。でも彼女は何も言わずに黙々と食べていた。その空気感がなぜか心地よかった。彼女はお弁当を持ってきており、俺はそれを覗き見すると、中にはきんぴらごぼうやナスの煮浸し、ハンバーグに煮卵が見える。なんだかその家庭的な中身に心の奥が暖かくなる。こんな若い子が持ってくるお弁当とは少し違い、本当の家庭の料理だと思った。その反面、これは誰かのために作ったのかと気になってしまう。その考え自体、何を気にしているんだか、と思わず苦笑した。だが、その興味本意の衝動からつい、「手作り?」と尋ねてしまった。すると彼女は話しかけられたことに驚きを見せつつ、すぐに笑顔を見せ、節約のために作っていると話していた。その俺に向けられた笑顔に胸の奥がふっと軽くなった気がするした。