用済みだと捨てたのはあなたです、どうかおかまいなく~隣国で王子たちに愛されて私は幸せです~
「私は生きていてもいいんだって……、自分を納得させるためだけに他人を利用してきた、浅ましい人間なんです」
 ぽろぽろと零れる涙を拭うこともせず、エレインは一思いに言い切った。
 惨めな自分を見られたくなくて、顔を背けようとするよりも早く肩を腕に抱き寄せられて体が(かし)いだ。
「あ」と同様から声が漏れたときにはもう、エレインの華奢な体はアランの腕の中にすっぽりと閉じ込められていた。
 薄い絹の夜着が、涙を吸って色を変える。
「辛いことを言わせてごめん」
(どうして殿下が謝るの……)
 こんな時まで優しいアランの言葉に涙が押し出され、エレインは彼の胸にすがるようにして声を出して泣いた。
 こんな風に思っていることをさらけ出したのも、声を上げて泣いたのも初めてのことで、自分が自分でないような、そんな戸惑いに囚われながら。
「きみが力を使う理由なんて、どうでもいいんだよ。力は、持っているだけでは特別な存在にはなれない。“どう使うか”が一番大事なんだ。心の中でどう思っていたとしても、きみは確かに多くの人の力になったのは事実で、誰一人として傷つけていないんだから」
 それがすべてだよ、とアランは諭すように言葉を紡ぐ。
「きみだから、その力を与えられたんだよ。エレイン、きみは浅ましくなんてない。とても立派に生きてきている」
 アランの低い声が、静かな空気の中に溶け込んでいき、エレインの心にもしみ込んでいく。
 抱きしめる腕がより一層強くなって、胸が詰まった。
 自分のやってきたことは間違っていなかったのだと、他の誰でもなくアランに認めてもらえたことがただただエレインを満たしていった。
「それに、例えきみにその能力がなかったとしても、俺にとってきみは唯一無二の替えの利かない大切な人だ。だから、どうかまずは自分の体を(いた)わってあげてほしい。きみが倒れたと聞き本当に肝が冷えた」
 アランは腕を緩めてエレイを離す。
 離れていく熱が、名残惜しい。
 恥ずかしさを忍んで恐る恐る見上げると、彼は悲しそうな苦しそうな、そんな気持ちを残したままふんわりとエレインに微笑みかける。
 彼の口から放たれた「大切」という言葉に、なんと返せばわからずエレインは口ごもる。
(きっと殿下の「大切」は、特別な意味など含まれていない)
 それでも、どうでもいい存在ではないというだけでエレインを喜ばせるのには、十分だった。
「とはいえ、きみの働きたいという気持ちも痛いほどわかる。だから、どうしていくかを決める上で、一つだけ確認したいことがある」
(確認したいこと?)
 なんだろうか、と首をかしげるエレインに、アランは衝撃の一言を放った。
「――エレイン、きみには精霊が見えているね」
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