用済みだと捨てたのはあなたです、どうかおかまいなく~隣国で王子たちに愛されて私は幸せです~
 しばしの沈黙の後、アランの手が伸びてきて手に触れる。握りしめた拳を解くようにして手が開かれた。
 まるで諭されるように両手とも開かれて、そのまま握られる。
 エレインは振り払うこともできず、受け入れるしかなかった。
 緊張と興奮とで冷え切った指先に、アランの温もりが伝わる。
 その優しい手つきに安心させられて、エレインが顔を上げると怒っているわけでも、呆れているわけでもない、悲しんでいるような表情のアランと目が合う。
(どうして、そんな表情(かお)を……?)
 エレインの言葉にアランが怒るのも、呆れるのもわかるけれど、悲しむ理由はエレインには分からなかった。
「エレイン、確かにきみのその能力は素晴らしいもので、きみを特別な存在にしているものでもある。だけど、だからといって、きみはそれだけの存在じゃないと俺が断言しよう」
「そ、そんなこと……」
(あるはずない)
 気の利いた話題も振れなければ、妹のシェリーのように愛想良くもできない。
 自分には、ハーブを育てることしかできない。それは自分が一番よくわかっていた。
 でもそれを「違う」と、目の前のアランは否定する。
 彼の目に自分はどう映っているのか、知りたいと思う半面、知るのが怖い自分もいる。しかし聞きたくないと止める勇気もなく、アランが続ける。
「きみは、貧しい人のために薬を作り、その功績をすべて王太子たちに奪われても文句ひとつ言わずに身を粉にして働いていた。そして、苦しんでいるテオにも寄り添い愛情を注いでくれたね。それらは、誰もができるようなことではないし、俺はきみ以上に心の清らかな人をほかに知らないよ」
(やっぱり……殿下は私を買い被りすぎてる……)
 確かに貧しい人たちに薬を届けたいと思ったのは事実だけれど、それは結果でしかない。
 そこに至るまでの自分は、単に自己満足でしかすぎないのだ。
 過大評価に、エレインは手足から体温が失われていくのを感じた。
「私は……そんなに立派な人間じゃありません……。私は、誰かの役に立つことで、自分自身の存在意義を見出していただけなんです……」
 言葉にしてしまったら、もうだめだった。
 ずっと、心の中だけに留めていた思いが、声になり、言葉となって形を作ってしまえば、押し殺していた感情が堰を切って流れ出ていく。
 エレインの薄茶色の瞳が揺らぎ、堪えきれなくなった涙がとうとう零れて頬を伝った。
< 102 / 150 >

この作品をシェア

pagetop