用済みだと捨てたのはあなたです、どうかおかまいなく~隣国で王子たちに愛されて私は幸せです~
 大好きなハーブに囲まれて好きなことをしていれば、嫌なことを思い出さないで居られる。しかも、それが誰かの役に立っていると思うとどんなに忙しくても頑張れた。
「みんな、今日もありがとう」
 あっという間に一周し、エレインはぐるりと見渡してほうっと感嘆のため息をもらす。小さくて素朴な温室は、母が居た頃となに一つ変わらず美しく、愛おしい。
 エレインと母をつなぐ、思い出のハーブたち。
 母が亡くなったのはもう八年も前のことなのに、つい昨日のことのように母との時間が蘇ってくるようだった。
「――さまー! エレインさまー!」
 感傷に浸っていると、遠くから自分を呼ぶ声にハッとする。
 数秒も経たない間に温室のドアから侍女のニコルが現れた。薄いブラウンの髪をおさげにした可愛らしい彼女は、エレインを認めると肩で息をしながら頬を膨らませた。
「もう、出発のお時間ですよ!」
「あら、もうそんな時間?」
 小首をかしげて素知らぬ振りをすれば、ニコルの頬はリスのようにますます膨らんだ。
「温室はいつでも問題ないんですから、ちゃちゃっと済ませてくださいっていつも言ってるじゃないですかぁ!」
「じゃぁ、今日も一日よろしくね」
 そう温室に声をかけて、エレインは小言を言うニコルの脇をすり抜ける。
「よく植物に話しかけてますけど、あれですか、その方がよく育つっていう?」
 後を追ってきたニコルが不思議そうに訊いてくる。
「さぁ、どうかしら」
「もぉー! 教えてくださいよぉー!」
 朝から元気いっぱいのニコルに、エレインの頬は自然にほころんだ。

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