用済みだと捨てたのはあなたです、どうかおかまいなく~隣国で王子たちに愛されて私は幸せです~
「殿下?」
 思わず立ち上がってアランを迎えるも、暗くてアランの表情までは見えなかった。
 それはアランも同じだったようで、彼は手にしたランプを顔の高さまで持ち上げて、エレインの顔を確認すると「あぁ、よかった……」と安堵のため息をもらした。
「こんな時間にどうされたのですか?」
(なにか急ぎの用でもあったのかしら)
「……エレイン、それはこっちのセリフだよ。見張りの者が教えてくれたんだ。いくら護衛がいるからってこんな夜に一人で出歩くのはいけないよ」
 夜着にガウンを羽織っただけの格好のアランを見るに、知らせを受けて慌てて出てきてくれたのだろう。
 眉尻を下げて困ったような表情でこちらを見つめる彼を目にして、エレインは申し訳ない気持ちになった。
「も、申し訳ございません……」
 彼に促され、二人一緒に荷台に腰を下ろす。
 てっきり宿に連れ戻されると思っていたエレインは拍子抜けしてしまう。
 ふーっと息を吐いて、アランは木を見上げた。
 エレインは、精霊たちがアランの周りに集まっていくのを、なんとなしに眺める。
(ふわふわさんたち、嬉しそう)
 この旅路で、精霊たちが取り立ててアランの周りを好んで飛んでいるのをエレインは不思議に思っていた。
「もしかして……着いてきたこと、後悔してる?」
「え……」
(私の気持ちを、気にかけてくださっていたの?)
 王子という立場の彼から、まさかそんなことを聞かれるとは露とも思っていなくて、エレインはぽかんとしてしまう。
 婚約者だった王太子はもちろん、義母も妹も実の父でさえもエレインの気持ちなどないものとして扱っていたから。
 こんな風に、どう思っているかを聞かれる機会事体がなく、
「いえ、そんなことは決して。私もどうしようか迷っていたので、渡りに船とでも言いましょうか……、後悔はしておりません」
 このたった数日の旅路でさえ、好待遇で快適この上なかったくらいだ。
「なら良かった……。考える隙も与えずに来てしまったから、もしかして心残りがあるのかと心配した」
「そうですね、心残りがないと言えば嘘になりますが……」
 実家の温室も最後まで世話をできなかったのはとても残念だった。
 エレインが居なくなった今、あの温室はきっと放置されて酷い有様になっていることだろう。
 それに、教会での調合や子どもたちへの教育もこのような形で放棄することになったのはエレインにとっては不本意だった。
(でも、教会関係は王太子妃候補としての公務の一環みたいなものだったから……シェリーが代わりにやることになるだろうし)
 エレインが勝手にしゃしゃり出るわけにもいかないのだ。
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