用済みだと捨てたのはあなたです、どうかおかまいなく~隣国で王子たちに愛されて私は幸せです~


 夜の帳が下り、就寝の挨拶をして各々解散となった後、エレインは一人宿の一角にある馬車置き場を訪れた。
 見張りの者に断りを入れてから、ひと際目を引く荷馬車の前まで近寄る。
 荷馬車の上には、エレインが実家から持ってきたフランキンセンスの木が置かれていた。
 この木は、エレインが生まれる前から母が大切にしていた特別な木。
 いつ見ても多くの精霊が辺りを漂い、ひと際輝いて見える。
 その輝きを目にするだけで、心が温かくなり、ふわっと軽くなるのだ。
 エレインはそれに寄り添うように、荷台に腰かける。
 母が亡くなってから、エレインは無意識にこの木に母を重ねていた。
 辛いときや、母が恋しくて寂しいときなど、この木に会いに温室を訪ねる。
 この木を見ると母との日々がくっきりと思い出される。
 たった十年、けれどもとても温かくて幸せな十年だった。
 母からもらった愛情がなければ、エレインはここに居なかっただろう。
 もしかしたら、生きてすらいなかったかもしれない。
 そう思うと、人の縁とは不思議なもので、色んな人に出会い、助け助けられ、ときに傷つきながら自分はここにいるのだと、そんなことを考える。
 ――ざ……
 砂の擦れる音がして、エレインは体をビクつかせた。
(だ、誰?)
 こんな夜ふけに一体誰がこんなとこに、と身構えていると聞き慣れた声が耳に届く。
「――エレイン」
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