用済みだと捨てたのはあなたです、どうかおかまいなく~隣国で王子たちに愛されて私は幸せです~
「驚いた。テオがあんなに穏やかに食事をするなんて、ずいぶん久しぶりな気がする。給仕も驚いていたよ」
「それならよかったのですが」
 食事を終え、船をこぎ始めたテオをベッドに寝かせたあと、エレインはアランの私室でお茶を共にしていた。
 アランの部屋は作りや調度品こそ豪奢だが、華美な装飾はなく落ち着いた空間だった。
「――それにしても、まさか俺まで手で食べさせられるとは思いもよらなかったな」
 肩をすくめるアランに、エレインは恐縮して「それは、その、本当に申し訳ございません」と謝罪する。
「咎めているわけじゃないよ。なにより、テオが美味しそうに食べる姿が見れてよかった」
「お付き合いくださりありがとうございました」
「お礼を言うのは俺の方だよ。それで、きみの見立てを聞いても?」
「はい。テオドールさまのあの症状は、おそらく精神的な問題からきていると思われます」
 話し出したエレインを、アランはじっと見つめて言葉を待つ。
「教会で暮らす孤児たちの中にテオドールさまと同じ症状になる子たちがいました。彼らは、両親を突然亡くしたり、引き離されたり、虐待を受けていたり……心に傷を抱えた子たちでした」
 本当なら言葉が喋れる年齢のはずなのに、赤ちゃん言葉を使ったり、喃語しか発しなかったり、歩けるのにハイハイしかしなくなったりと、まるで乳児のように振舞う姿から「赤子返り」と呼ばれていた。
「赤子返りか……、まさにテオの症状と一致しているな。だけど、これまで雇った世話係の誰もそのようなことは知らなかったのはどうしてだろう」
「これは私の憶測でしかありませんが」と前置きをしてから、エレインは続ける。
「王室の世話係に選ばれる方々はきっと身分の高い方が多いでしょうから、そういった事例を目にすること自体が少ないのかと……」
 教会にくる子どもたちは、みんな特殊な境遇の子どもばかりだから、確率的に言えば雲泥の差だろう。
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