ループするメイドは破滅ルートを回避したい!はずが、なぜか宰相様の溺愛ルートに入ってしまいました!?
 それから二十分後。
 書簡記録室に再び現れた彼の表情は、わずかに険しかった。

「少々まずいことになりました。昼餐会の開催は今日だそうです」

「きょ、今日……!?」

(嘘!?昼餐会のタイミングも前と変わってる…!!)

「え、何時からですか…!?というか今何時…!?」

「落ち着いて。これが聞き出した昼餐会の詳細です。まだ開始まで二時間はあるので急いで準備すれば間に合うかと」

 差し出されたメモ書きには、正確な開始時間や参加予定貴族の名までしっかり記されていた。そのメモを握りしめたまま、アリアは深く頭を下げた。

「ありがとうございます……っ!私は急いでエレナ様の支度に向かいますので!」

「分かりました。ちなみに馬車の手配は――」

 男性が言い終わるよりも早く、アリアは走り出していた。
 上擦る呼吸、揺れる黒のスカート。軽やかに、けれど全力で廊下を駆け抜けていく。

 (まだ間に合う、間に合わせなきゃ…!!)

 社交界は何よりも重要な品格の見せ場。ひとたび評価が下がれば、どれだけ人格があっても覆せない。それはアリアが過去のループで痛いほど学んできたことだった。

 (こんな卑怯な罠でエレナ様の名誉を汚すなんて……絶対に許さない!!)


 このとき、アリアは気づいていなかった。

 なぜあの片眼鏡の男性が、ここまでアリアに親切にしてくれていたかを。

 書簡記録の照合に非公式な情報収集、馬車の手配まで。
 すべてが迅速かつ親身だったことを。

「なるほど……あれが、閣下がご執心のメイドですか」

 文官棟の柱にもたれかかりながら、ライナス・フォルトは静かにため息をつく。

 お人好しで正義感が強い。
 行動と発想がやや突飛で――妙に勘が鋭い。

 なぜ『まだ届いていないはずの招待状』の行方を、必死に探していたのか。
 知り得ないはずの昼餐会の存在を、彼女はどうやって知ったのか。

「…確かに興味深くはありますね」

 目を伏せると、片眼鏡(モノクル)に手を当ててくすりと小さく笑った。


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