この恋、史上最凶につき。

第九話 俺の女だって、全員に示すから



 放課後。
 時雨くんは何も言わず、私の手を掴んで校門の外へ歩き出した。

 「え……どこ行くの?」

 聞くと、彼は短く答えた。

 「——仲間に会わせる」

 (……え? 仲間?)

 その“仲間”が誰かなんて、
 時雨くんの雰囲気からすぐに察した。

 ——暴走族。



 町外れの倉庫街に近づくと、
 空気がピリッと変わる。

 遠くからエンジン音。
 低く唸る排気音が、胸の底まで響いてくる。

 バイクの列が見えた。
 十数台の改造車が並び、その前で黒い特攻服を着た人たちが談笑している。

 「し、時雨くん……ここって……」

 「俺のチーム《黒焔》の溜まり場」

 さらっと言うけど、雰囲気が完全に“近づいちゃダメな場所”だ。

 私は慌てた。

 「え、ちょっと待って……!私は帰ったほうが——」

 「帰らせねぇ」

 きっぱり遮られた。

 「今日紹介すんのは決めてた」

 (け……決めてたって……)

 私より前に、彼の方が緊張しているようにも見える。

 ぎゅっと手を握ったまま、
 時雨くんはバイクの列へ向かって歩いていく。

 その瞬間——

 「総長ァーー! 今日も来たぜ!」
「おい、なんか女連れてんぞ!!」
「マジ!? 時雨が!? 嘘だろ!?」

 ……騒ぎ方が、完全に予想以上。

 私は思わず時雨くんの腕にしがみついた。

 けれど、彼は仲間のざわめきを無視して、私をぐっと近くに引き寄せた。

 「全員、静かにしろ」

 低い声に、暴走族たちが一瞬で黙る。

 時雨くんは私の肩に腕を回し、
 全員を睨むように見渡した。

 「紹介する。——伊達雪菜」

 全員の視線が突き刺さる。
 心臓が破裂しそう。

 「お、お、おう……!」
 「ま、マジで連れてきた……」
 「こんな可愛い子、今まで見たことねぇ……!」

 ザワザワと騒ぎが広がる。

 その中に、一人背の高い男が前に出てきた。

 綾斗(あやと)という、時雨くんの副総長らしい。

 怖い顔だけど、どこか兄貴っぽい雰囲気。

 「おい時雨。……お前、本気で紹介すんのか?」

 「当たり前だろ」

 「今まで誰にも興味なかったくせに……いきなり“総長の女”扱いで連れてくんなよ」

 その言葉に、私は全身が固まった。

 (そ、総長の……女……!?)

 綾斗の視線が私に向く。

 「怖くねぇのか?時雨は総長だ。敵も多いし、危ねぇぞ」

 たしかに、言葉は正しい。
 でも返事に困っていると——

 時雨くんが、私の腰を強く引き寄せた。

 「雪菜は関係ねぇ。守るのは“俺の仕事”だ」

 その声は静かで、
 でも仲間たちの誰よりも強かった。

 綾斗が笑う。

 「はっ、馬鹿みてぇに真面目だな。……まぁいい。紹介しといて正解だ」

 すると、仲間がわっと集まってくる。

 「雪菜ちゃん、時雨の彼女なんすか?」
 「どこで知り合ったん? え、学校?」
 「総長が手ぇ繋いでるとこ初めて見たわ!」

 とんでもない質問の嵐で、
 私は真っ赤になって縮こまった。

 そんな私を見て、時雨くんは眉をひそめ——

 「近ぇよ、お前ら」

 仲間全員がビクッとして後退した。

 「雪菜は俺のだって言ってんだろ。あんまり見るな」

 「は、はい!!」

 みんな一斉に姿勢を正す。

 (も、もう……本当に恥ずかしい……)

 でも、時雨くんは私の横顔を見ながら
 小さく呟いた。

 「……雪菜を仲間に見せるの、夢だった」

 「え……?」

 「俺の大事なもんを、ちゃんと示すって決めてた。
  誰にも手出しさせねぇようにな」

 その一言で、胸がじんと熱くなる。

 時雨くんは続けて言う。

 「雪菜。今日から、お前は《黒焔》の“総長の女”だ」

 その宣言は——
 もう逃げられないほど強くて、でも不思議なほど甘かった。
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