この恋、史上最凶につき。
第三十一話 時雨視点
初めて雪菜を見たのは、入学式の朝だった。
校門の前で人が多いのに、ひとりだけ視界が切り取られたみたいに見えるやつがいた。
白い肌に静かな目。
歩くたびに、空気が柔らかく揺れる。
――誰よりも綺麗だと思った。
気づいたら視線を奪われてて、
近づく前から、もう“欲しい”って思ってた。
名前を聞いたとき、胸の奥で何かが弾けた。
伊達雪菜。
伊達政宗の血を継いだ家。
そんなこと、本当はどうでもいい。
ただ、雪菜という存在が俺の世界を一瞬で塗り替えた。
話しかけてきた男がいたとき、
胸の奥がザワッとした。
(ああ、嫌だ)
自分でも引くほどの独占欲だった。
雪菜が笑うのを、他の男に見せたくなかった。
「雪菜、こっち来い」
理由なんてなかった。
ただ、離したくなかった。
その日から、俺は毎朝雪菜の家の前に立つようになった。
待つ理由?
そんなの決まってる。
雪菜に一番最初に触れるのは、俺だけでよかったから。
伊達家の門が開いて、雪菜が出てくる。
その瞬間、胸が熱くなる。
「雪菜は俺の未来だよ」
気づいたら、口から勝手に出ていた。
笑われるかと思ったのに、雪菜はただ…不思議そうに俺を見つめた。
(もっと欲しくなるだろ…)
こうやって俺の知らない雪菜に触れるたび、
少しずつ、離れられなくなっていった。
学校で雪菜に嫉妬した女子が嫌がらせをした日は、
本気でキレた。
「雪菜が泣くのは、俺の前だけでいい」
口にした瞬間、仲間にも空気が変わったのがわかった。
俺は総長だから、喧嘩も仕切りも誰より慣れてる。
でも、“雪菜のことになると”全部が変わる。
守るとかじゃない。
奪いたい。
独占したい。
俺だけのものにしたい。
そういう感情しか湧かなかった。
勉強を口実に雪菜を家に連れてきたとき。
ソファで休憩してたら、少し肩が触れただけで心臓が跳ねた。
雪菜の香り。
近い距離。
ふにゃっと俺に寄ってくる柔らかさ。
全部、雪菜だけのもの。
「……帰すの、やだ」
玄関で言葉が漏れたとき、
雪菜は頬を赤くして俯いた。
あの瞬間、
“もう逃がさねぇ”って思った。
海デート。
水着の雪菜を見た瞬間、本気で息が止まった。
(ヤバい、可愛い……俺以外に見せるな)
パーカーを羽織らせたのは反射だった。
海の中で腰を抱いたとき、
雪菜が俺に触れた感触が、今でも残ってる。
あれは反則だ。
俺の独占欲が壊れる。
「雪菜、好きだ。
……誰よりも、誰よりも」
あれはもう、告白とかじゃなかった。
宣言だ。
雪菜は「好きだよ」って返してくれた。
その瞬間、
世界が反転した。
(ああ……雪菜は俺のものだ)
でも平和は長く続かねぇ。
狼牙の襲撃。
雪菜が攫われたと聞いた瞬間、
心臓を握りつぶされるみたいな痛みが走った。
“奪われる”という言葉が、頭の中でぐるぐる回った。
救出したとき、雪菜の震えた手を掴んだ瞬間、
もう離せなかった。
腕を回して胸に抱き寄せ、
雪菜の体温を確かめる。
「……良かった。生きてる」
声が震えたのは、自分でも初めてだった。
黒焔も狼牙も全部どうでもいい。
雪菜がいない世界のほうが怖かった。
アジトに戻ってソファに座った瞬間、
雪菜を抱き込んでしまった。
「離れんなよ……
雪菜がいねぇと、俺……壊れそうになる」
あれが本音だ。
甘えとかじゃない。
依存。
狂気。
雪菜だけが俺の世界。
そして雪菜は、俺の背中に腕を回して言った。
「……いるよ。ずっと」
その言葉で、
俺は本当に救われた。
雪菜の存在は、
俺にとって鎖じゃない。
“生きていく意味そのもの”だ。
――俺は、雪菜を離さない。
誰が敵でも、何が来ても。
雪菜は俺の未来で、俺の全てだ。
この先どうなろうが、
雪菜が隣にいる限り、
俺は何度でも戦える。
全部奪われても、世界が変わっても。
雪菜だけは守り続ける。
だってもう決まってる。
雪菜は、俺の女だ。
俺の唯一で、俺の全てだ。
――この先も、何があっても。