この恋、史上最凶につき。
第三十三話 君がいる、それだけで強くなれる
放課後の屋上で、私は時雨くんと並んで座っていた。
夕日が差し込んで、校舎の壁をオレンジ色に染めている。
風が気持ちよくて、あの日の騒がしさが嘘みたいだった。
気づけば、時雨くんは私の手を包んでいた。
「……雪菜。今日さ、ちゃんと話したかった」
「うん。なんとなく、そんな気がしてた」
時雨くんは黙って夕日を見つめていたけれど、
その横顔はいつもより真剣で。
でも怖さはまったくなかった。
ただ、胸が少しだけきゅっとなる。
やがて時雨くんは息を吸い込んで、私の方へ向き直った。
「オレ、お前のこと……守れてたか?」
「え?」
そう聞かれるとは思わなくて、目を瞬かせる。
彼は少し俯いたまま続けた。
「狼牙の件も……巻き込んだ。
オレのそばにいるせいで、怖い思いばっかさせた。
……それが、ずっと引っかかってた」
時雨くんの声は静かで、まっすぐで。
胸の奥がじんと熱くなる。
「時雨くん」
手を握り返すと、時雨くんの肩がわずかに震えた。
「怖かった時もあったよ。でも……一度も、嫌だって思ったことはないよ」
時雨くんが顔を上げ、驚いたように見つめてくる。
「だって……時雨くんは、全部守ってくれた。
あの時も、そのあとも。
私、時雨くんのおかげで立っていられたんだよ」
風が吹いて、髪が揺れる。
「時雨くんが、私を手を離さなかったから……
私も、時雨くんのそばにいたいって思えたの」
時雨くんの瞳が、ゆっくり熱を帯びていく。
その目を見ているだけで、胸が温かくなった。
そしてゆっくり、私の腰を引き寄せてくる。
「……雪菜。
オレ、本気で……お前がいない未来、考えられねぇんだけど」
抱き寄せられて、胸に触れる鼓動が速くなる。
「いない未来なんて、私も嫌だよ」
言った瞬間、時雨くんの腕の力が強くなった。
「雪菜……大好きだよ」
耳元で落ちる声が甘くて、切なくて。
顔を上げると、時雨くんがそっと額を合わせてきた。
静かで、深くて、優しい。
「これからのオレは、
守るだけじゃなくて……
雪菜の“隣”をちゃんと歩きたい」
胸が熱くなって、目の奥がじんとする。
「隣……?」
時雨くんは小さく笑う。
「彼氏とか、そういう軽いやつじゃなくて。
もっとちゃんと……お前の未来に、オレがいたい」
夕日が落ちて、世界が赤く染まる。
その光の中で、時雨くんは誰よりも綺麗だった。
私は彼の胸にそっと顔を寄せる。
「……うん。
時雨くんの未来に、私もいたい」
その言葉を聞いた瞬間、
時雨くんの息が止まったように静かになり――
次の瞬間、抱きしめられた。
強く、でも優しく。
「……離さねぇよ。
一生、離す気ねぇから」
その声が、決意に満ちていて。
私は目を閉じ、彼の心臓の音を静かに聞いた。
これで終わりじゃない。
ここが始まり。
黒焔とか、狼牙とか、そんな名前よりずっと。
時雨くんと私が歩く未来の方が、大切だから。
夕焼けに包まれた屋上で、
私たちはゆっくりとキスを交わした。
優しくて、温かくて、
これからを誓うみたいなキスだった。