【香る物語】香りの檻
仕事が終わるころには、心も体もすっかり冷えきっていた。怒涛の一日からやっと解放された私。どうしてもそのまま帰宅する気になれず、駅ビルをあてもなくぶらぶらして時間を潰した。
駅前の喧騒を抜け、10分も歩くと、静かな住宅街に入る。どの家にも灯りがともり、台所から漂う晩ごはんのおいしい香りが風に混ざって流れてきた。どこからかテレビの笑い声が聞こえてくる。その何気ない日常の気配に、なぜか心が落ち着き、自然と笑みがこぼれた。しかし、ほっと緩んだ心は、すぐにまた強張っていく。
家の前に着くと、門柱の立派な表札に刻まれた『芳野』の文字が目に入る。思わず立ち止まり、胸の奥が少し痛んだ。自分だけ、名字が違う。でもそれは私自身が選んだこと。その選択が正しかったのか、いまだにわからずにいる。深呼吸をひとつして、重い足を前に出す。
ーー帰らなきゃ。
現実は、ここ。
駅前の喧騒を抜け、10分も歩くと、静かな住宅街に入る。どの家にも灯りがともり、台所から漂う晩ごはんのおいしい香りが風に混ざって流れてきた。どこからかテレビの笑い声が聞こえてくる。その何気ない日常の気配に、なぜか心が落ち着き、自然と笑みがこぼれた。しかし、ほっと緩んだ心は、すぐにまた強張っていく。
家の前に着くと、門柱の立派な表札に刻まれた『芳野』の文字が目に入る。思わず立ち止まり、胸の奥が少し痛んだ。自分だけ、名字が違う。でもそれは私自身が選んだこと。その選択が正しかったのか、いまだにわからずにいる。深呼吸をひとつして、重い足を前に出す。
ーー帰らなきゃ。
現実は、ここ。