【香る物語】香りの檻

穂乃香(金木犀とカモミール)〜安らぎと無垢な記憶〜

*香りノート:金木犀とカモミール*
優しい香りが、眠りと記憶を静かに包み込む檻
〜〜〜〜〜


あれ、ここ私の部屋だ……
ベッドにいる小さい女の子は誰? 
ほっぺが赤いから熱があるのかしら? 
うなされて、涙がこぼれてる。

そっと近づき、じっと女の子の顔を覗き込んでハッとしたーー私だ!

そうか、これはお母さんが再婚してすぐの頃だから、小学校一年生のとき。引っ越しと転校、新しい環境と家族。色々なことが一気に変わり、体調を崩したんだった。

その夜は、芳香堂の役員やお得意先との会食という名の、新しい家族のお披露目会だった。熱を出した私は、新しいお父さんとお母さんに置いていかれたんだ。

あのとき、熱でふらふらして喉が痛かった。
でももっと痛かったのは、私の心。

ひとりベッドの中。
お母さんはいない。
新しい家と部屋。

怖かった、心細かった。
涙を拭ってくれる人もいない。

夢と現実の間を彷徨っていたそのとき、ふわっと風とともに、りんごとオレンジのような淡く甘い香りが漂ってきた。その中に、かすかにツンとした病院のような香りが混じっている。

何が起きているのかと目を開けようとしても、まぶたが動かない。

不意に額に当てられた冷たい手の感触。
でも気持ちいいな。
体がだらんとしてくる。

ああ、きっと夢なんだろう。
だってお母さんはいないから。
もしかしたら、絵本で読んだお星様の妖精さんが来てくれたのかも?

そんなことを思いながら、再び夢へのドアを開けた瞬間、ささやくように聞こえた言葉。

「ーー安心しろ。俺がおまえを絶対守るから」

耳に心地よい声は、まるで子守唄のよう。頭をポンポンとやさしく撫でてくれる。心地よい香りに全身を包まれ、いつのまにか意識を手放していた。

そうか、もうあの怖い日々とは違うんだ……
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