【香る物語】香りの檻
夢の中から現実へと戻される。カーテンの隙間からやわらかい朝の光が、手を差し伸べてくれていた。

久しぶりに過去を振り返る。今の恵まれた生活より前の、悪夢のような日々を。

一番古いあの夜のことは、もう断片的にしか思い出せない。でも、臭いだけは残っている。

酒とタバコ、安っぽいコロンと体臭が混じった、生ぬるい空気。あれは、私が『ろくでなし』と呼ぶヤツの臭いだ。

お母さんにしがみつきながら泣いていた幼い私は、あの悪臭が近づくたびに、ただ怖くて怖くて仕方なかった。

それでも、お母さんの背中はちゃんと私を守ってくれた。そのぬくもりだけは、怖い夜の中でもはっきり覚えている。

お母さんはいわゆるデキ婚。しかも、ヤツとの交際にも反対されていたため、家族・親族とは絶縁状態。ただお母さんのお兄さん夫婦だけは、今でも気にかけてくれている。

無事に離婚できたお母さん。確か、私は4歳くらいだったっけ?

ボランティアで無料法律相談を行っていた伊集院圭介(いじゅういん・けいすけ)先生にお世話になり、接近禁止も含め縁を切ったと聞く。

その後、シングルマザーとして行政援助を受けながら、芳香堂の清掃員とスーパーのレジ打ちを掛け持ちし、私との生活を支えた。



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