【香る物語】香りの檻
以来、私は意識的にお兄ちゃんを避け始めた。お兄ちゃんが必ず実家に戻るのは、元旦(お父さんの誕生日でもある)と10月初め
ーー私の誕生日。

だから自分の誕生日には、高校生らしい理由をつけてわざと家を空けた。友だちとカラオケに行ったり街を歩いたりして、帰りが遅くなっても平気なふりをした。

それでも家では、お母さんが大好きな唐揚げやケーキを用意してくれている。お父さんも、いつものようにやさしい声で話しかけてくれる。そして、お兄ちゃんも。私がいないことをわかっていながら、毎年必ず帰ってきてくれている。それが逆に心苦しい。

部屋の前には、毎年小さな箱とカードが置かれているーーお兄ちゃんからだ。

ドアを開け、部屋をロックしてから、カードを見る。端正な文字で一言だけ『誕生日おめでとう』と。

どうしてだろう、こんなにも罪悪感が募る。

そんな思いを振り切るように、箱を開けた瞬間、香りがふわりと広がった。

中には細いガラスのロールボトルが入っている。透明な液体を照明にかざして透かしてみると、淡い光が中で揺れているように見えた。

ゆっくり、軽くボトルを振ってみる。
フルーツのような、花のようなやわらかい香り。そして後からかすかにアールグレイみたいな紅茶の上品さが残る。この香りのプレゼントは、高校生になってから始まり、今でも続いている。

あの頃は、これがどんな香りなのかわからなかったが、どこか懐かしくホッとさせてくれた。

そっと手首に塗ってみる。誰かにやさしく抱きしめられて安心する香り。

この香り、好きかも。

しかし、このときはまだわからなかった。


ずっと胸の奥にしまい込んでいた香りの小箱ーーその中で、黒ずみ、燻るように眠っていた想いが、『カチャ』と静かな音を立てて目を覚ましたことを。
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