【香る物語】香りの檻
そして、早くも新しい年を迎えた。本当は、今年の元旦は友だちと初詣に行く予定だった。でも、その子がインフルエンザにかかってしまって、急きょ中止。

代わりにひとりでホテルを取ろうとしたけど、どこも満室。家にいたくなくて、元旦早々ひとりで出かけたが、結局、人酔いして家へ帰る羽目に。

玄関のドアを開けると、家の中は暖かな空気と人の声に満ちていた。

お母さんの笑い声。
お父さんの低くて穏やかな声。
そして、聞き慣れたお兄ちゃんの声まで。

視線を下げると、家族のものではないスニーカーとショートブーツが並べてある。どうやら今日は、蘭ちゃんと零司くんも来ているらしい。お父さんの誕生日を兼ねた年始の宴。思いがけず私の苦手な賑やかな正月になった。はぁ、と長いため息があふれる。

「穂乃香ちゃん、帰ってきたのね!」

リビングのドアを開けると、ほろ酔いで上機嫌なお母さんが笑顔で振り向き、私にグラスを差し出して言う。

「これ、空いたから洗ってくれる?」

「……うん」

帰ってきての第一声がこれ?

呆れた思いでリビングに足を踏み入れると、鼻をくすぐるワインの香りに思わず立ち止まった。ふと顔を上げると、笑い合う人たち。リビングには、色とりどりの香りが満ちている。香水、柔軟剤、ワイン、料理、暖房の匂い。一つひとつはやさしいのに、すべてが混ざり合うと、たちまち過去へ連れ戻される。

ーーまるでデパートの化粧品売り場の臭いみたい。

そう思った瞬間、喉が締め付けられる。
頭の片隅に埋めたはずの遠い記憶、酒とタバコと安っぽいコロンと体臭が入り混じる悪夢。

声にならない悲鳴が、お腹の底から込み上げる。額に冷や汗がにじみ始める。

急いで使用済みのグラスを集め、台所に向かう。
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