【香る物語】香りの檻
離婚後も数回、伊集院圭介先生とお会いしたことがあった。最後に会ったのは……確か、私が高校一年生だったような。そのときにいただいた先生の名刺は、ずっとお財布に入っているーーお守りとして。
ひとつ大きく息を吐き、かすかに震える指で携帯のボタンを押した。
東京の中心地・ミッドタウンにあるサクラスクエアは、夕方になると仕事や学校帰りの人々で賑わっている。その巨大ビルのオフィスサイド、北側の7階に伊集院総合法律事務所がある。
エレベーターを降りると、クリーンな香りが一層私の緊張を高める。
エレベーターホールの先にある空中庭園。ガラスドア越しに、美しい冬茜の空が広がっているのが目に留まった。しばらくそこに佇み、数回深呼吸をしながら夕焼けを見つめる。少しでも緊張をほぐそうと。
『伊集院総合法律事務所』と純黒で彫られたゴールドプレート。その隣には、重厚な木目のドア。すでに自分がここにいること自体、場違い感が半端でない。勇気を出して、重いドアを静かに開ける。
「いらっしゃいませ」
カウンターの向こうから、穏やかな声が聞こえた。受付にいる小柄な女性が静かに会釈する。私と同じくらいか、少し年下に見えた。慌てて私も深く頭を下げる。
指先が少し冷たく感じる。うわずりながら名前を告げると、彼女はすぐに笑顔でうなずき、内線を取った。
「森崎さまですね。弁護士の伊集院がお待ちしております」
案内されるままに、廊下を進む。足元の絨毯はやわらかく沈み、歩くたびに足を取られそうになる。必死になって彼女の後をついて行く。
応接室の前で、受付の女性が立ち止まる。
「こちらでお待ちください」
ドアを開けてもらい、静かな応接室へ通される。ドアを開けてもらい、静かな応接室へ通される。しばらく待っていると、壁際の観葉植物の葉が揺れた。その瞬間、ドアがノックされる。
ひとつ大きく息を吐き、かすかに震える指で携帯のボタンを押した。
東京の中心地・ミッドタウンにあるサクラスクエアは、夕方になると仕事や学校帰りの人々で賑わっている。その巨大ビルのオフィスサイド、北側の7階に伊集院総合法律事務所がある。
エレベーターを降りると、クリーンな香りが一層私の緊張を高める。
エレベーターホールの先にある空中庭園。ガラスドア越しに、美しい冬茜の空が広がっているのが目に留まった。しばらくそこに佇み、数回深呼吸をしながら夕焼けを見つめる。少しでも緊張をほぐそうと。
『伊集院総合法律事務所』と純黒で彫られたゴールドプレート。その隣には、重厚な木目のドア。すでに自分がここにいること自体、場違い感が半端でない。勇気を出して、重いドアを静かに開ける。
「いらっしゃいませ」
カウンターの向こうから、穏やかな声が聞こえた。受付にいる小柄な女性が静かに会釈する。私と同じくらいか、少し年下に見えた。慌てて私も深く頭を下げる。
指先が少し冷たく感じる。うわずりながら名前を告げると、彼女はすぐに笑顔でうなずき、内線を取った。
「森崎さまですね。弁護士の伊集院がお待ちしております」
案内されるままに、廊下を進む。足元の絨毯はやわらかく沈み、歩くたびに足を取られそうになる。必死になって彼女の後をついて行く。
応接室の前で、受付の女性が立ち止まる。
「こちらでお待ちください」
ドアを開けてもらい、静かな応接室へ通される。ドアを開けてもらい、静かな応接室へ通される。しばらく待っていると、壁際の観葉植物の葉が揺れた。その瞬間、ドアがノックされる。