【香る物語】香りの檻
「森崎穂乃香さんですね。お待たせしました」
ハキハキとした物言いに、思わず聞き惚れてしまうバリトンボイス。長身で、上品なスーツ姿の男性が入ってきた。年齢はお兄ちゃんくらいかな。
この方は伊集院涼介先生。父・圭介先生の後を継いだ人。整った顔立ちだが、鋭い目つきに思わず体が固まる。再び緊張に押しつぶされそうになった。
だが彼が一歩近づいたとき、ふわりと空気が変わった。新鮮なレモンやオレンジを切ったときの香りにアールグレイが少し混ざったような。強く主張しないのに、馴染みのある香りが私の心のこわばりを徐々にほぐしてくれる。
「早速ですが、あなたの伯父さんからお話はうかがっております。ご心配いりません。あなたとお母さまには、一切接触させません。私がすべて対処しますから」
言葉よりも、その声に力があった。低くて落ち着いていて、音の一つひとつが空気を整えていく。まるで、不思議な力を持つ魔法のように。
その涼介先生のおまじないと爽やかな香りが、胸の奥にこびりついていた嫌な悪夢の臭いを、少しずつ溶かして消してくれるような気がした。
「彼はすでに誓約を破っています。あなたに接触しようとした時点で。二度とそのようなことが起きないようにしますから、大丈夫ですよ。私が責任をもって対処します」
先生は口角を上げ、さらっとそう言ったが、目が笑っていない。瞳の奥の暗闇が、氷のように冷たい光を放っていたのをちらっと見てしまった。
えっ、えっ?
私の見間違い?
思わず首の後ろがゾクっとした。この人だけは敵にしちゃいけない気がする。
「あ、ありがとうございます……本当に助かります」
「いえ、当然のことをしているだけです。私の父も気にかけていました。何か他に、私で力になれることはありますか?」
ハキハキとした物言いに、思わず聞き惚れてしまうバリトンボイス。長身で、上品なスーツ姿の男性が入ってきた。年齢はお兄ちゃんくらいかな。
この方は伊集院涼介先生。父・圭介先生の後を継いだ人。整った顔立ちだが、鋭い目つきに思わず体が固まる。再び緊張に押しつぶされそうになった。
だが彼が一歩近づいたとき、ふわりと空気が変わった。新鮮なレモンやオレンジを切ったときの香りにアールグレイが少し混ざったような。強く主張しないのに、馴染みのある香りが私の心のこわばりを徐々にほぐしてくれる。
「早速ですが、あなたの伯父さんからお話はうかがっております。ご心配いりません。あなたとお母さまには、一切接触させません。私がすべて対処しますから」
言葉よりも、その声に力があった。低くて落ち着いていて、音の一つひとつが空気を整えていく。まるで、不思議な力を持つ魔法のように。
その涼介先生のおまじないと爽やかな香りが、胸の奥にこびりついていた嫌な悪夢の臭いを、少しずつ溶かして消してくれるような気がした。
「彼はすでに誓約を破っています。あなたに接触しようとした時点で。二度とそのようなことが起きないようにしますから、大丈夫ですよ。私が責任をもって対処します」
先生は口角を上げ、さらっとそう言ったが、目が笑っていない。瞳の奥の暗闇が、氷のように冷たい光を放っていたのをちらっと見てしまった。
えっ、えっ?
私の見間違い?
思わず首の後ろがゾクっとした。この人だけは敵にしちゃいけない気がする。
「あ、ありがとうございます……本当に助かります」
「いえ、当然のことをしているだけです。私の父も気にかけていました。何か他に、私で力になれることはありますか?」