【香る物語】香りの檻
くるりと回り、研究室を出て行こうとドアノブに手をかけた瞬間、ドアに映る影が重なり、背後に熱を感じる。
振り向かなくてもわかる。誰かって。耳のすぐそばで低い声が落ちた。
「穂乃香も来るんだ。お前もこの部の一員だからな」
全身を電流が一気に駆け巡り、頬に火がついたように熱くなる。そしてポンポンとやさしく頭に触れられた。お兄ちゃんの指先の感触が髪に残る。心臓が大きく波を打つ。トクントクンと。
ーーハッと我に返り、慌てて周りを見渡す。
誰かに聞かれた?
見られた?
どうやら見ていなかったようだーーってか、いつのまに後ろに来たの?
なぜかみんな祝賀ムードでコーヒーを飲んでいるはずなのに、すでに酔っているように見える。ハグし合ったり、ハイタッチをしたり。
これじゃ、周りなんて気にしてないよね。
ホッと胸を撫で下ろした。
だって私たちの関係、兄妹ということは隠し通してるから。そんな私の心配をよそに、お兄ちゃんはフッと息を漏らし、わずかに口角を上げた。
これが大人の余裕なんだろうな。それにお兄ちゃんにとって、私はいつまで経っても小さな妹でしかないんだ。
なんだか悔しい。私ばかり心配して、ドキドキして、イライラして。
そして、好きでいて……
こんな私の気持ちなんて、誰も気づいていない。この場所は達成感と高揚感の空気でいっぱいだから。いつもは無臭な研究室が、今はコーヒーとお祝いの花束の香り、そして笑いで満たされている。
この後の夜が、何かを変えるきっかけになるなんてーーそのときの私は、わかるはずもなかった。
振り向かなくてもわかる。誰かって。耳のすぐそばで低い声が落ちた。
「穂乃香も来るんだ。お前もこの部の一員だからな」
全身を電流が一気に駆け巡り、頬に火がついたように熱くなる。そしてポンポンとやさしく頭に触れられた。お兄ちゃんの指先の感触が髪に残る。心臓が大きく波を打つ。トクントクンと。
ーーハッと我に返り、慌てて周りを見渡す。
誰かに聞かれた?
見られた?
どうやら見ていなかったようだーーってか、いつのまに後ろに来たの?
なぜかみんな祝賀ムードでコーヒーを飲んでいるはずなのに、すでに酔っているように見える。ハグし合ったり、ハイタッチをしたり。
これじゃ、周りなんて気にしてないよね。
ホッと胸を撫で下ろした。
だって私たちの関係、兄妹ということは隠し通してるから。そんな私の心配をよそに、お兄ちゃんはフッと息を漏らし、わずかに口角を上げた。
これが大人の余裕なんだろうな。それにお兄ちゃんにとって、私はいつまで経っても小さな妹でしかないんだ。
なんだか悔しい。私ばかり心配して、ドキドキして、イライラして。
そして、好きでいて……
こんな私の気持ちなんて、誰も気づいていない。この場所は達成感と高揚感の空気でいっぱいだから。いつもは無臭な研究室が、今はコーヒーとお祝いの花束の香り、そして笑いで満たされている。
この後の夜が、何かを変えるきっかけになるなんてーーそのときの私は、わかるはずもなかった。