【香る物語】香りの檻
終業後、第一研究開発部のみんなは、和気あいあいと蘭ちゃん指定のお店へ向かった。先ほどの賑やかさはなく、研究室は物音ひとつせず、空気の動きまで止まったようだった。お兄ちゃんもきっと蘭ちゃんたちと一緒に出たんだろう。
秘書室のデスクを拭き、書類を整える。パソコンの電源も切った。みんなと一緒に出ずに、必要でもないファイルの位置を整理したり、とにかく時間を稼ぐーー食事の場へ行きたくない、ただそれだけのために。
何もすることがなくなってからも、引き出しの中を覗いた。片づけるほど、心の中は散らかっていく。
結婚か……お兄ちゃんと蘭ちゃんが。
思わず長いため息が出てしまう。これ以上ここにもいられず、仕方なく会場へ行くことにする。その前に、バッグからロールボトルを取り出し、手首につけた。
そっとその香りを鼻先に近づける。お兄ちゃんからもらった『穂乃香ブレンド』を数回深く吸い込み、気分を落ち着かせようとする。
甘酸っぱいりんごと紅茶の香り。そのやわらかなぬくもりが、心にゆっくりと広がる。けれど、口から漏れるのはため息ばかり。
行かなきゃいけないのに、思うように足が動かない。それでも、どうにかエレベーターに乗り込む。
秘書室のデスクを拭き、書類を整える。パソコンの電源も切った。みんなと一緒に出ずに、必要でもないファイルの位置を整理したり、とにかく時間を稼ぐーー食事の場へ行きたくない、ただそれだけのために。
何もすることがなくなってからも、引き出しの中を覗いた。片づけるほど、心の中は散らかっていく。
結婚か……お兄ちゃんと蘭ちゃんが。
思わず長いため息が出てしまう。これ以上ここにもいられず、仕方なく会場へ行くことにする。その前に、バッグからロールボトルを取り出し、手首につけた。
そっとその香りを鼻先に近づける。お兄ちゃんからもらった『穂乃香ブレンド』を数回深く吸い込み、気分を落ち着かせようとする。
甘酸っぱいりんごと紅茶の香り。そのやわらかなぬくもりが、心にゆっくりと広がる。けれど、口から漏れるのはため息ばかり。
行かなきゃいけないのに、思うように足が動かない。それでも、どうにかエレベーターに乗り込む。