【香る物語】香りの檻
この感覚、以前にもあったような……
そうだ、配属辞令が出た日だ。あのときは時間稼ぎのために、階段を使ったんだっけ。
あぁぁ、なんでエレベーターに乗っちゃったんだろう。

ゆっくり『1』のボタンだけを押し、自然にドアが閉まるのを待った。

まあ、遅れて行っても誰も私がいないことに気がつかないでしょう……ってことは、このまま逃げてもわからない……よね⁉︎

よし、逃げちゃおっと!

思わず口角を上げ、微笑んだ。そう決めると、肩が軽く感じられる。

エレベーターのモーターの音が静かに響く。
やがて、わずかな揺れとともに止まった。

チーン

先ほどとは違い、軽やかな足取りでエレベーターから降り、ハッとする。

前方のベンチには、長い足を組んで座っている人物。彼と目が合った瞬間、立ち止まる。

なんで、ここにいるの……お兄ちゃん?
みんなと一緒に行ったんじゃないの?

彼の姿がだんだんと近づいてくる。

……ガーン。
逃走計画失敗した。
張り込みかよ。

撃沈してる私をよそに、いつも通りの彼。その余裕ある態度が、鼻につく。
少しだけ。

「穂乃香、終わったか。行くぞ」

アァァ……完全に詰んだ。



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