【香る物語】香りの檻
そっと背中に添えられたお兄ちゃんの手。そのまま導かれるように、街灯の並ぶ歩道を歩いた。
コートから伝わる熱の波紋がじわじわと広がり、背中が発火したように熱い。
「なぁ、澄香さんは今でも雛人形を出すのか?」
お兄ちゃんからの思わぬ質問に、戸惑いながら答えた。
「あ、うん。今年もね。『出さないと穂乃香がお嫁に行けない』って」
苦笑する私は、隣の横顔をちらっと盗み見る。少し眉間を寄せたお兄ちゃん。
「別に無理して結婚しなくても、いいじゃないか」
「まあ、今のところ予定もないし。でも、一人暮らし、しようと思うの。できるだけ早く。そのほうがお父さんもお母さんも二人でのんびりできるしね」
急に立ち止まり、彼はいつもよりさらに声を低くした。
「父さんたちから、何か言われたのか?」
「ち、違うよ」
慌てて右手を胸の前で振る。
「私がそうしたいだけ。いずれは……お父さんたちだっていなくなるんだし。いつまでも甘えられないよ」
「俺がいるじゃないか。穂乃香のことは俺が守る」
嬉しさのあまり、思わず息をのんだが、あの日の、蘭ちゃんを抱きしめていた彼の姿と『結婚間近』という噂が頭をよぎる。
「な、なに言ってんのよ。それに私が実家にいたら、お兄ちゃんのお嫁さんだって嫌だと思うよ、小姑なんて」
そう言いながら、ズキンと胸が鈍く痛んだ。
でも、そのことを悟られたくなくて、なんでもないふりをして笑顔を貼り付けた。
コートから伝わる熱の波紋がじわじわと広がり、背中が発火したように熱い。
「なぁ、澄香さんは今でも雛人形を出すのか?」
お兄ちゃんからの思わぬ質問に、戸惑いながら答えた。
「あ、うん。今年もね。『出さないと穂乃香がお嫁に行けない』って」
苦笑する私は、隣の横顔をちらっと盗み見る。少し眉間を寄せたお兄ちゃん。
「別に無理して結婚しなくても、いいじゃないか」
「まあ、今のところ予定もないし。でも、一人暮らし、しようと思うの。できるだけ早く。そのほうがお父さんもお母さんも二人でのんびりできるしね」
急に立ち止まり、彼はいつもよりさらに声を低くした。
「父さんたちから、何か言われたのか?」
「ち、違うよ」
慌てて右手を胸の前で振る。
「私がそうしたいだけ。いずれは……お父さんたちだっていなくなるんだし。いつまでも甘えられないよ」
「俺がいるじゃないか。穂乃香のことは俺が守る」
嬉しさのあまり、思わず息をのんだが、あの日の、蘭ちゃんを抱きしめていた彼の姿と『結婚間近』という噂が頭をよぎる。
「な、なに言ってんのよ。それに私が実家にいたら、お兄ちゃんのお嫁さんだって嫌だと思うよ、小姑なんて」
そう言いながら、ズキンと胸が鈍く痛んだ。
でも、そのことを悟られたくなくて、なんでもないふりをして笑顔を貼り付けた。