【香る物語】香りの檻
「そんな心配す……」

チリンチリンチリン‼︎

突然後方から、けたたましく鳴る自転車のベル。とっさのことで体がすくみ、動けずにいる私の腕が引っ張られた。くるりと半回転して、すっぽりとお兄ちゃんの胸の中に飛び込んでしまった。

厚い胸板に、身動きできないほどやさしく包み込まれる。ふわっと鼻に届いた馴染みのある香り。清潔感のある、少しツンとした香りに、紅茶を合わせたような匂い。

お兄ちゃんの香り、好き。
特にこの紅茶の香りが。
どこか大好きなアールグレイを思い起こす。
安心できて、どこか懐かしい。

ああ、このままときが止まっちゃえばいいのに。

こんな私の願いも虚しく、彼の腕がそっと解かれた。

「大丈夫か、穂乃香?」

コクリとうなずく私の手をおもむろにつなぎ、お兄ちゃんは歩き出した。ただこの指を絡めたつなぎ方って……恋人つなぎ?

ど、どうして?
これって普通じゃないよね?
お兄ちゃんには蘭ちゃんがいるのに。

彼の手を自分から解くことはできないーー解きたくない。それにこの恋人つなぎについて何も聞けず、私はただ、春先の冷たい夜風を全身に受けながら歩いた。




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