【香る物語】香りの檻
自然と歩くペースが遅くなってしまう。そんな私を気遣っているのか、お兄ちゃんが声をかけてくれる。

「もうすぐだから。この先すぐだ」

ガードレールを抜け、小道に入ったところに、大きな赤い提灯がすりガラス戸の隣に掲げられている。黒い文字で丸鶏串(とりぐし)と書いてあった。

「ここだ」

ガラガラと引き戸を開けるお兄ちゃんが、私を先に中へ入れてくれたーーが、入った瞬間に喉が締め付けられる。

店内は焼き鳥の煙が充満し、そこにアルコールの臭いが混じり合っていた。カウンターとテーブル席はすべて埋まっている。お客たちの話し声と笑い声も加わり、私の心身(すべて)が拒否反応を示した。

いつものように、ほんの少しだけ息を吸って長く止める。それを繰り返しながら立ち尽くす。

いきなり腕を掴まれ、階段を上がって2階に連れて行かれた。どうやらお兄ちゃんが、お店の人に2階の個室を使えるように頼んだらしい。

パンプスを脱いで部屋に上がると、長方形の掘り炬燵があった。余裕で十人は座れる。

先ほどの喧騒はここにはない。少しずつ呼吸を整える。

しばらくして先に来ていたみんなが個室に移ってきた。

「やっと来たわね、二人とも!」

蘭ちゃんの明るい声が部屋に響く。私たちが座る場所に悩んでいると、蘭ちゃんがお兄ちゃんと零司くんを両脇に座らせ、テーブルの真ん中に陣取った。

どうやらここでも主導権は彼女が握っている。


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