【香る物語】香りの檻
それから数十分が過ぎ、みんなのお酒のペースもゆるやかになっていた。

蘭ちゃんは最後の一口を一気に飲み干し、コトンと空のグラスをテーブルに置く。

頬をほんのり桃色に染め、トロンとした目の彼女。かなり酔っているようだ。隣に座っているお兄ちゃんの腕を揺さぶりながら、甘えるように言った。

「ねぇ〜、律己ぃ。もう結婚しちゃおうよぉ〜、ね?」

彼女の言葉に、私だけでなく、その場にいた全員が凍りつき、呼吸さえも忘れたようだった。お兄ちゃんと零司くんを除いて。

蘭ちゃんの甘えた声が、胃の奥を渦潮のようにかき乱した。熱いものが喉までせり上がり、慌ててグッと飲み込む。指先が氷のように冷たくなり、体がかすかに震えた。

な、何が起きてるの?
これって現実?
それとも私は、また悪い夢を見ているのだろうか。

今日研究室で耳にした噂は本当だったんだ、結婚間近って。

お兄ちゃんは黙って、彼女の背中をあやすようにさすっている。

ーーああ、言葉なんて、この二人にはいらないんだ。

私はとっさに息をコントロールした。ほんの少しだけ吸って、長く止める。それを繰り返す。だって今、私が唯一思い通りにできるのはそれだけだから。

……もう無理。ここにはいられない。
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