【香る物語】香りの檻
再び、高校生のときに見たあの映像が頭の中で繰り返し流れる。お兄ちゃんと蘭ちゃんの抱擁。

部屋に漂う異様な空気を、みんなも感じているようだ。隣にいる女性の先輩たちに、半分呆れた声で耳打ちされた。

「森崎ちゃん、私たちもう帰るわ。なんかこれ以上、茶番に付き合いたくないのよ。せっかくのお祝いだったのに。一緒に出ない?」

私もここにいたくない。けど、いつも第一研究室での会計は私がやってるし……。

迷ったあげく、先輩たちには先に帰ってもらい、私も支払いをしようと立ち上がる。

すると零司くんがそばに来て、会計は自分がすると言ってくれた。

それともう一つ。

「悪い、穂乃香ちゃん。律己を送っていってくれる? 珍しく酔っちゃったみたいで。俺は蘭の世話するから」

ふとテーブルに目を向けると、さっきまで蘭ちゃんと一緒に馬鹿騒ぎしていた男性の先輩たちが、そそくさとドアを開けて出ていくところだった。

モワッと炭火の煙と、タレが焦げた匂いが部屋に侵入してくる。思わず軽く眉間にしわを寄せてしまう。

蘭ちゃんはテーブルにうつ伏せて寝ている。
隣のお兄ちゃんは、赤みを帯びた顔で、ただぼんやりと宙(そら)を見つめていた。

それは単純に酔っているからなのか?
研究が認められて、安堵しているから?
それとも、蘭ちゃんとの結婚について考えているからなのか?

そんな彼の横顔を、黙って見つめることしかできなかった。
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