【香る物語】香りの檻
お兄ちゃんはふらりとよろめき、そのままベッドに座った。シーツがわずかに沈み、全身を預けるように体が倒れる。

「お、お兄ちゃん!」

驚きながら慌ててそばに駆け寄り、どうにかスーツの上着を脱がせた。大きく息をはき、ベッドの端に腰をかける。

今度はネクタイをするっと外し、起こさないようにそっと胸元のボタンをひとつ外した。

シャツの隙間から見える喉元ーー頭をよぎるのは、今夜、レモンサワーを一気に飲み干した彼の姿。思わず体の芯に電気が走り、呼吸が浅くなる。

吸い込むたびに、香りが血液とともに全身に素早く巡る。この魅惑的な香りは、理性のベールをやわらかく溶かしていく。

震える指でまたひとつ……。

生地に触れた瞬間、ふいに手首を掴まれた。
触れられた場所がじんわりと熱を帯び、思わず息を止める。

視線を上げると、彼の目が開いていた。さっきまで眠っていたはずなのに。焦点の合わない潤んだ瞳で、まっすぐに私を見つめている。

手首を引き寄せられ、体がゆっくりと傾く。いつのまにか、鼻先が触れ合う距離。

二人の視線が絡み合い、時間が止まった。

彼の吐息と、うるさいほど鳴り響く私の鼓動だけが、この部屋に満ちていく。

そっと頭に添えられた手。私は、思考することをやめた。
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